木曽と二人の出逢い
前角 成子
きょうは 早くから太鼓の音が ヒノ木の香りを風に乗せて 村の人々の耳に聞えてくるのだった 赤沢自然休養林に住む 美林ちゃんの耳にも聞こえて 「お母さん太鼓の音がする」 「うん今日は年に一度の岩葉観音様のお祭りだよ 村の人々は皆んな楽しみにしているんだ 美林ちゃんも せっかく作ったピンクの羽衣着ていきな」
「そうねお母さん作ってくれた オオヤマレンゲのリボン付けて行くわ」「そう木曽町の花のリボンね 美林ちゃんお母さんがお父さんからもらった ヒノ木玉の ヘアバンドつけると尚可愛いよ」「うあーそんなロマン始めて聞いた」「お母さんだって若い時あったんだよ」そんな話をしながら美林の髪をお六櫛できれいにとかし真珠のような玉バンドと町花のリボン ピンクの羽衣まとった美林を見て 母の和子は顔を赤くした
お父さんと始めて逢った頃を思い出していた 美林のお父さんそれはヒノ木を切る名人だった きづしと呼ばれ 千年も昔から木曽に伝わる きづし だった これたか親王が植えたヒノ木である 昔はヒノ木一本切って首がとぶと言われて きづし 以外ヒノ木は切れなかった 「じゃあ行ってくるね」「気を付けるんだよ」 美林は心の中でひょっとして去年逢ったあの男の子に会えるそんな気がして胸をわくわくおどらせていた もう年に一度の村祭岩葉観音は村々の人達でごった返しだった トウモロコシ御弊もちが売られている中 お六櫛屋の前に 太郎ちゃんが居た 恥かしかったけど「太郎ちゃん」と呼んでみた 「あっ美林ちゃん ピンクの羽衣あんまりきれいでわからなかったよ」「太郎ちゃんだって寝覚の床に居るのと違って見なおしたわ」「うんお父さんがね「これ着て行け」って」「ヒノ木の筏に乗って唄をうたいながらくだって行ったよ」「どこえ」「伊勢神宮さ二十年に一度建て替えるためにさ」「そう言えばお母さんが言ってた 筏乗りの人って仲のりさんて言うんだって いい声して唄って筏あやつって川をくだるんだって」「あゝその唄か」「木曽のなア 木曽の御嶽山ワナンジャラホイ夏でも寒いヨイヨイヨイ 木曽の仲乗りさんチョイト足袋そえてヨイヨイヨイ」「いい声ね 太郎ちゃんのお家どこ」「寝覚の床だよ丸い大きな白い石があって青くきれいな水があって浦島太郎が居た所サ こんど美林ちゃんつれてってやるよ」
「えエー亀に乗って竜宮城へ行った浦島太郎それにしても私達の木曽っていろんな所あるのね 和宮さんにしろ陣屋にしろ木曽義仲にしろ漆器ぬりにしろ」「御弊もち食べよおなかすいたでしょ美林ちゃん」「そうねーづうーとはたご町中あるいたもんね」 いつの間にか手をにぎりあるく二人だった