浦島太郎物語

原きよ子

 浦島太郎は竜宮城から帰り、ねざめの床で目を覚ましました。しかし回りのすべてが全然知らない景色であり、人達であったのです。
 悲しくなってしまいました。とぼとぼと彷徨い歩いているうちにいつしかあの赤沢の森へたどり着いたのです。奥深いひのきの森を彷徨い歩いておりました。そして疲れてそこに生えていたひのきの切り株に腰をかけて、森を眺めていました。サワーと立ち込める霧の向こうから可愛い小鳥たちの声、ほのかに射し込む光、香しい花の匂い。どの位の時間が経ったのでしょうか。何か気持ちが和らいで疲れもなくなってきました。ふと、どこからかやさしい声が聞こえてきます。もしもし、もしもし、声のする方を見回すと、霧の立ち込める向こうから、どうされたのですか?
 あなたはどなた?誰?もしかして太郎さん?
 太郎はあわてて切り株から腰を上げこっくり返事をして声の方をよくよく見ました。女の人の声はするが姿がありません。美しい花を咲かせた木が一本立っていました。どこかでこの声を聞いたことがあるような、ないようなとても不思議な気持ちでした。でも思い出せません。ふと顔を上げた時には花の木もなく声もしなくなりました。あれ?と思いながら又切り株に腰を下ろしていると、またもしもし、もしもしと声がします。声の方を見るとなんとそこには竜宮城からもらってきた玉手箱があるではありませんか。太郎は森を彷徨い歩いているうちにどこかへ落としてしまったのに気がつかなかったのです。

 
 嬉しくて心から拾ってくれたお礼を言いました。そしてこの玉手箱をいただいた訳を美しい花の木の方へ話しかけました。すると一緒に中を開けてみませんか?と声がするのです。びっくりしながらも木の元で玉手箱を開けたところ又びっくり、中から何と出て来たのは、それはそれは美しい今までに見たこともないお花がいっぱい入っておりました。その中の花びらを一枚太郎が手に取った途端あの美しい花の木の元には竜宮城で別れた乙姫様が笑って立っているではないですか、これにも又、又、又、びっくり。乙姫様は太郎と一緒に帰りたくなってこの玉手箱の中に花の妖精のようになって身を隠していたのでした。そしてこの赤沢の森でいつか太郎に会える予感がして、そして玉手箱を開けてくれる予感がして辛抱強く待っていたのでした。
 こうして二人はこの森で再会しいつまでも仲良く暮らしたそうです。
 いつの間にか玉手箱からこぼれた花は、種を落とし、蕾を持ちそしてその蕾は美しいおおやまれんげの花となりました。この森でいつまでも美しく咲いているそうです。